「重要な出会い」

 いくつかのステップを経て独立し、

「現代女性のためのオーダードレス」で

しばらくは順調だった。

〈当時制作したドレス〉

しかし私の心はどうしても満たされることがなく、

心の中で「何かが違う」

という違和感をぬぐえなかった。

私は手当たり次第に本を読み、

そこでアパレル業界がいかに環境悪かを思い知った。

〈毎日本屋さんに引きこもった〉

人類の経済活動が地球に与えた影響の大きさ。

ビル、工場、道路、農地、ダムが地表を埋め尽くし、

海洋にはマイクロプラスチックが大量に浮遊し、

その中でも増大しているのが大気中の

二酸化炭素=温室効果ガス。

アパレルは大量生産され、

売れ残った大量の在庫は燃やされているので、

原因は自分にもあると、大きな罪悪感に襲われた。

服作りは本気で辞めようかと夜も眠れない日々。

自分の服作り、

自分の人生はどうしたら良いかを考え続けていた。

そのようにもがいて何かを探していた時、

出会ったのがイタリアの高級カシミヤブランドの創業者

ブルネロクチネリの人間主義的経営という本だった。

このように美しい仕事があるのかと、

私が目指すべき仕事の理想形を見た。

〈本を読んですぐにブルネロ本社へ行った〉

今まで無意識に服づくりをしていて抱いていた

違和感、不安、がなぜなのか理解できた。

クチネリ氏は言う。

「自分は絶対に、

倫理的にも人間の尊厳を守るために生きて働く。

天の創造物である自然を傷めずに、

可能な限り自然への負荷を小さくする。

そのように生産されたものにこそ価値がある。」と

私もこのような美しい仕事をし、

美しい人間になりたいと心から思う。

アトリエの壁にはこの言葉を書いた紙が貼ってある。

〈写真・東京・汐留の小さなアトリエ〉