ひびの記憶

大島紬 × 金継ぎ造形 着物リメイクドレス

〈写真・ひびどれすを纏った川田さん〉

割れた器を、金で継ぐ。

それは壊れたことを恥とせず、かえってその傷跡を美として引き受ける、日本独自の哲学です。

金継ぎは、陶磁器や漆器のひびや割れを、漆と金粉で修復する伝統技法。

“直す”という行為のなかに、ものを大切にする心、そして「再生」を美とする精神が息づいています。

この衣装には、すべて不要になった着物を用いています。

一度役目を終えた訪問着や大島紬をほどき、

新たな命を吹き込むようにして再構築しました。

顔まわりのオブジェは、内側に金色の梅柄の着物、外側に藍の着物を使い、あえて完璧な円ではなく、ひびや欠けをイメージした造形に。

「不完全さの美しさ」をそのままかたちにしました。

現代社会では、壊れること、崩れること、老いることに対して過剰な拒絶が求められがちです。

人は皆、傷やひびを抱えて生きているのに、それを隠し、覆い、取り繕おうとしてしまう。でも本当は、誰の中にもある「欠け」や「割れ」こそが、人間性の源ではないでしょうか。失敗した自分、挫折した自分、壊れそうな心を、金でつなぐように、そっと抱きしめること。

それが他者への共感を生み、人としての深みとなっていく。そんな信念を、この衣装に込めました。グレイッシュな上身頃は訪問着から、スカートには大島紬のアンサンブルを。

シックな色調の中に、金継ぎの「金」がほんのり入ることで、静けさと強さが調和した佇まいとなっています。

この「金継ぎ」の思想は、ただの修復技術ではなく、サステナブルな未来を照らす美学でもあります。

物が壊れたらすぐに捨てるのではなく、そこに新たな意味を見出し、価値を重ねる。

そうした姿勢は、循環型社会を目指す今、世界中で注目されつつある考え方です。

欠けたままで、なお美しく。完全ではないからこそ、唯一無二。