以前のアトリエは、六本木の一角にありました。
便利な場所ではありましたが、
スペースが手狭になり、
もう少し落ち着いた場所で、
布と向き合える場所を探して、
汐留へと移ることにしました。
新しいアトリエは、
もともと絨毯敷きの部屋でした。
けれど私は、
自然の香りに包まれて服づくりがしたいと思い、
一枚一枚、檜のタイルをノコギリで切り、
床に敷き詰めました。
電動ではなく、手で。
ギコギコと、木を挽く音。
部屋いっぱいに広がる、檜の澄んだ香り。
都会の真ん中にいながら、
木に囲まれているという安心感が、
心を静かに整えてくれます。
それは、どこかで思い出していたのかもしれません。
私が生まれ育った家もまた、木に囲まれていたのです。
建築家・内藤廣さんの設計でした。
やさしい光と木のぬくもりがあって、
無垢材にふれながら育ったあの時間が、
今でも私の「美しさの感覚」の
根っこになっている気がします。
だからこのアトリエは、
ただ服をつくる場所ではなく、
自分の原点に少しだけ戻れるような場所
でもあるのです。
布を広げる。
針を動かす。
植物で染められた色に触れ、
誰かの記憶と対話するように、
静かに服を仕立てていく。
木の香りとともに始まる、fumikaの日々。
この場所から、また新しい物語を
お届けできたらと思っています。